小規模企業経営力向上事業費補助金の経営ビジョン(様式第2号)と事業計画書(様式第3号)の書き方を中小企業診断士が解説しました。手引に掲載されている例だけではイメージがわかない方でも、ご自身で経営ビジョンや事業計画書を作成できるようになります。ページ中の記入例は、手引と同じ「和食店がケータリングサービスに新規参入」する設定としています。
目次
経営ビジョンの書き方
1.申請者の概要
形式的な記入なので省略します。
2.自社の強み・弱み及び環境についての分析
手引10ページの事業有効性審査⇒経営ビジョン評価⇒
1.自社の強み・弱み及び環境について、的確に分析ができているか。
自社の強み | 自社の弱み |
・地元生産者とのつながりを背景に、新鮮な食材を安定して確保できること。 ・長年の取引実績により原材料の仕入れ価格が抑えられるため、手頃な価格で商品提供ができること。 |
・PR不足により見込み客に近隣競合店との違いを見込み客に伝えられていないこと。 ・新規顧客の開拓につながる取組みができていないこと。 |
業績によい影響を与える外部環境 | 業績に悪い影響を与える外部環境 |
・和食が健康に良い食事であるという認識が高まっていること。 ・単身世帯の増加によって中食需要が増加していること。 |
・当社が所在する○○市の人口減少に伴い見込 客の絶対数も減少していること。 ・大手の飲食チェーン店の出店増加に伴い競争が激化していること。 ・新型コロナウイルス感染症により、当面は会食人数の制限が続くこと。 |
- 一般にSWOT分析といわれる項目です。SWOTとは、強み・弱み・機会(業績によい影響を与える外部環境)・脅威(業績に悪い影響を与える外部環境)という意味です。
- 各項目に記入する内容は、補助事業(補助金で取組むこと)に関係があることを優先します。例えば、「社長の人脈が広い」のは強みかもしれませんが、補助事業に人脈の広さが関係しなければ無理に書く必要はありません。
- 外部環境の解釈は事業によって変化することに留意します。例えば、学習塾にとっての少子化は、見込み客の絶対数が減少するという視点では「業績に悪い影響を与える外部環境(脅威)」と解釈できます。一方、子供1人あたりにかけられる教育費が増加するという視点では「業績によい影響を与える外部環境(機会)」と解釈できます。
- 新型コロナウイルス感染症の特例や加点を利用するときは、「業績に悪い影響を与える外部環境」のなかに新型コロナウイルス感染症が終息しない、終息してもコロナ前とは顧客ニーズが戻らない場合などを踏まえた内容も書きます。
3.今後の経営の方向性・方針
手引10ページの事業有効性審査⇒経営ビジョン評価⇒
2.今後の方向性・方針が明確になっているか。
○経営の方向性
当社の理念である「新鮮な食材にこだわった健康に良い和食を提供すること」は変えない。その上で、今後の方向性として店舗だけでは料理を提供できなかった顧客層にも当社を利用していただくことを目指していく。当社を取り巻く、①人口減少②競争激化③新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえると、新たな顧客層の開拓が事業継続のために必要不可欠と考えるからである。
○経営の方針
前述の方向性を実現するために、新たにケータリングサービスを開始する方針である。既存のメニューをそのまま提供するのではなく、美味しさや健康面に配慮したメニューを新たに開発することを予定している。
なお、当社がケータリングサービスで収益を確保するには次の2点の課題があると認識している。
- ケータリングサービスに適したメニュー開発
ケータリングサービスでは、調理から召し上がっていただくまでに時間差がある。よって、既存メニューをそのまま使うのではなく、新たにケータリングに適したメニュー開発を行う。また、他社との差別化を図るために、美味しさだけではなく糖質や塩分・タンパク質量など健康面に配慮したメニューにする。 - ケータリングサービスの新規顧客開拓
当社にとってケータリングサービスは新商品であるため新規顧客を開拓する必要がある。よって、オンライン・オフラインの両面で注文を獲得する施策に取組む。オンラインではホームページを通じた情報発信を強化する。オフラインでは近隣企業・町内会・地域の趣味サークルなどを対象にサービスをPRして団体ニーズの獲得を目指す。同時に単身世帯が多い地域にはポスティングを行い個人顧客も開拓していく。
- 方向性と方針は似た言葉です。小規模企業経営力向上事業費補助金では、方向性は企業が収益を向上させるために目指すこと(記入例の場合は新たな顧客層の開拓)、方針は方向性を実現する具体策(記入例の場合はケータリングサービス)と解釈するのが妥当だと思います。
- さらに方針を実現するための課題を書くとよいでしょう。理由は2つあります。1つ目は、方針を多面的に考えていることが伝わり説得力が高まるからです。2つ目は、「この課題を事業計画書に記入する内容で解決できる(だから補助金が必要)」という流れができることで、申請書を通じて一貫性のあるストーリーになるからです。
4.経営革新計画承認取得を目指す計画
手引10ページの事業有効性審査⇒経営ビジョン評価⇒
3.経営革新計画の承認取得に意欲があり、それに向けた3年間の計画が具体的に策定されているか。
年度 | 内容 |
---|---|
2021年度 補助事業年度 |
・ケータリングサービス向けのメニュー開発:9月~11月 ・新規顧客獲得の取組み(ホームページリニューアル・DM作成等):10月~12月 ・ケータリングサービスの開始:2022年1月 |
2022年度 |
・受注状況やお客様の声を踏まえた商品・サービスの改善・見直し:通年・随時 ・ホームページやポスティングの反応を分析に基づく販売促進方法の改善・見直し:通年・随時 ・経営革新計画の制度を調査:2022年9月 ・経営革新計画の過去の採択事例や実績を調査:2022年9月 ・経営革新窓口の○○商工会議所に、経営革新計画の作成・申請の相談:2022年12月 |
2023年度 |
・経営革新計画のテーマ決定:2023年4月 ※現時点では、正社員を1名雇用した上で料理人が出張するタイプのケータリングサービスを計画している。よって新事業活動の類型のうち「サービスの新たな提供の方式の導入その他の新たな事業活動」による申請を予定している。 ・経営革新窓口の○○商工会議所から計画書のフィードバック:2023年6月 ・申請書を経営革新支援窓口に申請する:2023年8月 |
- 3年後に経営革新計画の申請をする前提で、年度ごとに実施することを記入します。基本的には記入例のように箇条書き+実施予定年月の形式で記入するとよいでしょう。
- 本項目は、経営革新計画のことを知らないと書けません。しかし、静岡県の経営革新計画のページはリンク切れのページがあるなどわかりにくいです(2021年7月14日時点)。よくわからないときは、本項目は空欄のまま商工会議所・商工会から説明を聞いてから記入してください。経営革新計画は小規模企業経営力向上事業費補助金と同じで商工会議所・商工会が相談窓口です。
事業計画書の書き方
1.事業のテーマ
なし
食材にこだわり、健康に配慮したメニューのケータリングサービス
- この項目のみ「30字程度」という制限があります。
2.事業の種類(どちらかに○)
手引10ページの要件審査⇒事業要件⇒
5.(1)自社がこれまでに行ったことがないもの又は既存のものを大幅に改善するもの
(○)自社がこれまでに行ったことがないもの /( )既存のものを大幅に改善するもの
3.事業の目的
手引10ページの要件審査⇒事業要件⇒
5.(2)新たな需要の開拓又は生産性の向上を目指して行うもの
(○)新たな需要の開拓 /( )生産性の向上
4.事業の内容
手引10ページの事業有効性審査⇒事業計画評価⇒
4.工夫・改善の内容(これまでとの違い)が明確になっているか。
6.目的達成のための手段・手法が必要かつ十分であるか。
7.計画は、自社の人的体制を踏まえて十分に検討され、スケジュールの面で無理なく実行できるものとなっているか。
内容 | 実施予定時期 |
---|---|
○メニュー開発 |
2021年9月~11月 |
○新規顧客の開拓 |
2021年10月~12月 |
○ケータリングサービスの開始 ※当社の人的体制を踏まえた実現可能性 |
2022年1月 |
新しさのポイント(これまでとの違いを具体的に記入) ○商品の提供方法の違い ○商品の違い ○対象とする顧客層の違い |
- 小規模企業経営力向上事業費補助金の申請書類でもっとも採否への影響が強いと思われる項目です。
- 「内容」に書くことが補助金を活用して行う事業です。経営ビジョンの「3.今後の経営の方向性・方針」で示した課題との対応関係を意識して具体的に書きます。項目ごとに社内で誰が担当するのか?も明記すると具体的な計画であることが伝わりやすくなります。
- 「内容」の最後に、審査項目の「自社の人的体制を踏まえて十分に検討され~」の項目を意識した内容を記入します。記入例のように補助事業に取組むことで新たなに発生する問題と解決策の他、外部事業者との連携など人的資源の制約がある小規模事業者でも補助事業をやり遂げられることを説明します。
- 「新しさのポイント」は、商品・サービス、提供方法、顧客層など複数の切り口から既存事業と何が違うのかを端的に書きます。そもそも小規模企業経営力向上事業費補助金は、「工夫・改善による新たな取組を実施する際の経費を助成」する制度です。
5.得られる(得られた)効果
手引10ページの事業有効性審査⇒事業計画評価⇒
5.新たな需要の開拓又は生産性の向上の効果が見込まれるか
○売上増加
ケータリングサービスにより表1のような売上増加の効果を得られると想定している。
2022年3月期 (補助事業終了年度) |
2023年3月期 | 2024年3月期 | |
---|---|---|---|
年間注文件数 | 40件 | 144件 | 158件 |
1注文あたりの単価 | 13,200円 | 13,200円 | 14,520円 |
売上 | 528,000円 | 1,900,800円 | 2,294,160円 |
ケータリングサービスの想定エリアは当社より半径5km圏内程度としている。このエリアには、16,250者(競合する宿泊・飲食サービス業を除く)の事業所と84の自治会がある。また、56,484件の単身世帯がある。このように一定の市場規模があると判断できる。前述した新規顧客獲得に向けた取組みを行えば、当社の売上計画は実現可能性があると考えている。
○雇用増加
ケータリングサービスの売上が計画通りに推移した場合、2023年3月期にはパート・アルバイト従業員を新たに1名採用できる見込みである。
○地元で生産された農作物等の消費増加
ケータリングサービスで利用する食材は、○○市内の農家で生産された野菜や△△港で水揚げされた魚介類を利用する。
○既存事業とのシナジー
ケータリングサービスで当社を認知した顧客に対して店舗への来店を促す、店舗を利用する顧客にケータリングサービスを案内することで、両事業のシナジーが生じる。
- 効果として売上がどの程度増加するのか?は必ず記入が必要です。3年程度の売上計画を表にまとめます。また、なぜその売上を実現できるのか?という根拠も書きます。記入例のような商圏人口は、地図で見る統計(統計GIS)を使って簡単に調査できます。
- 売上以外にも、雇用増加・地域への経済波及効果・既存事業とのシナジーなど複数の切り口から記述します。
よくある質問
- Q1.写真は掲載した方がいいですか?
- 経営ビジョンと事業計画書に関係がある写真なら掲載した方がいいです。特に補助事業で導入予定の設備や新商品などのイメージ写真があるときは積極的に掲載してください。一方、自社の外観や集合写真など補助事業と関係がない写真は不要だと思います。